一方で、高速バス市場の「本丸」と言える短・中距離の昼行路線の実績は、全国的に見ても安定している。
交替運転手が必要で高コスト構造の上、需要の波動が大きい長距離夜行路線と異なり、短・中距離路線はもともと収益性が大きい。さらに、高頻度運行(東京―水戸や福岡―熊本などでは10分間隔。多くの路線で30~60分間隔)によって習慣的な利用が定着しているため、規制緩和後の後発参入はほとんど成功しておらず、競争環境にも恵まれている。
長距離夜行路線では脅威となる新幹線網の拡充だが、この種の路線では、競合する鉄道が値上げになることもあり、むしろ乗客増を招いている。
航空とも競合する長距離夜行と異なり、直接の競合先は鉄道のみである。新幹線や特急列車より安い(おおむね6割程度)運賃を設定さえすれば、安定した乗車率を見込める。
だが、JR旅客会社のうち数社がIR資料や国土交通省の会議などで、レベニュー・マネジメント(RM、繁閑に応じた価格変動など)を本格的に導入し収益性向上を図る旨を既に表明済みである。例えばウェブ予約・決済限定など条件付きであったとしても、曜日や時間帯によって、鉄道の運賃・料金が大幅に変動するようであれば、高速バスの集客への影響は大きい。
短距離路線を別にすれば、高速バスは座席数が少ないので座席指定制を採ることが多い。とはいえ、地元のリピーターの多くはなるだけ気軽に乗車することを好む。座席指定制路線でも予約なしでの乗車や当日の便(時間帯)変更のニーズは大きい。
そこで、運転手が車内で現金を収受するケースも多い。「便(時間帯)によって運賃が異なる」というような運賃制度を本格的に導入するには、まずオペレーションと、それを実現するITシステムの開発から入らねばならない。
競合先が本格的にRMを導入してからでは遅い。なるだけ早く、本格的なRM活用に向けて準備に入らねばならない。
(高速バスマーケティング研究所代表)